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札幌家庭裁判所 昭和51年(家)833号 審判 1976年7月26日

本籍・住所 札幌市

申立人 黒田エイ(仮名)

事件本人 金美子(仮名)

事件本人 金正一(仮名)

主文

本件各申立をいずれも却下する。

理由

本件各申立理由の要旨は、本件事件本人らの父黒田正英(以下「正英」という。)は昭和五一年二月二〇日死亡し、母金石美(以下「石美」という。)は行方不明のため後見が開始したが、いずれも指定後見人がなく、また、法定後見人となるべき先順位者も行方不明であるから、申立人(本件事件本人らの父方の祖母)を後見人に選任する旨の審判を求める、というのである。

そこで、申立理由について検討するに、まず札幌市中央区長作成の戸籍謄本一通、札幌市東区長作成の登録済証明書二通、兵庫県尼崎中央警察署長作成の家出人捜索願い出証明願の写、兵庫県尼崎市長作成の登録事項の照会について(回答)と題する書面、尼崎市市民課外国人登録係作成の韓国人金石美に関する照会事項について(回答)と題する書面、当庁調査官の調査報告書各一通、申立人および黒田忠夫の各審問の結果を総合すると、つぎの事実が認められ、これに反する証拠はない。

(1)  本件事件本人らは、日本人である正英と韓国人である石美との間の非嫡出子で、それぞれ韓国国籍を有するものであるが、正英が昭和四六年二月八日同人らをそれぞれ認知したこと。

(2)  本件事件本人らは、尼崎市で父母と申立人によつて養育されていたが、昭和四六年五月、当時ホステスをしていた石美が実家に行くと云つて外出したまま帰宅せず、爾来今日まで行方不明であること、そのため本件事件本人らは、申立人の肩書住所において申立人に養育されているが、一方、正英も昭和五一年五月二〇日死亡したこと。

(3)  本件事件本人らの直系血族である母方の祖父はすでに死亡し、同祖母も所在は勿論のこと、生死さえも不明であること。同じく事件本人らの直系血族である父方の祖父も既に死亡していること。

(4)  申立人は、本件事件本人らの直系血族である父方の祖母であること。

しかして、法例第二三条第一項によると、後見は、被後見人の本国法によるべきところ、上記認定のとおり本件事件本人らの国籍は韓国であるから韓国法(同人らの本籍地等から大韓民国法)によるべく、しかして、大韓民国法第九〇九条・第九二八条によれば、上記認定のとおり本件事件本人らの父である正英は死亡し、その母も行方不明であり、かつ、本件事件本人らは未成年者であることが記録上明らかであるから、同人らにつき、後見が開始したことが認められる。

しかるところ、本件事件本人らには、同国民法第九三一条に定める指定後見人がいないことは記録上明らかであるから、同国民法第九三二条・第九三五条によつて定まる法定後見人となるべき人の存否が検討されるべきところ、本件事件本人らには法定後見人としての第一順位にある配偶者がいないことは本件記録上明らかであるから、その次の直系血族が法定後見人になるべきであるが、上記認定事実によれば、本件事件本人らの直系血族のうち、申立人を除くその他の者は、死亡或いは行方不明なので、本件申立人が当然法定後見人となることが明白である。

してみると、本件事件本人らには、韓国法上法定後見人が存在することが明らかであるから、同国民法第九三六条による後見人を選定すべき場合に該らない。

よつて、本件各申立は、その理由がないから却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 永吉盛雄)

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